残次品~放逐星空
(ざんじひん~ほうちくせいくう)

人類の未来はどこへ向かうのか?<その6>

林静恒「エデンは技術であって、神ではない。常に悪用出来る抜け穴がある。エデンを完全に遮断する技術がまだなかったとしたら、なぜ俺がここにいると思う?」
アンクル「『禁断の果実』はエデンを完全に遮断できる伝説のプログラムだ。これで林静恒がまだ生きている理由が説明できる。」
誰でもエデンを遮断することは出来るが、それはエデンの機能をブロックするだけで、エデンとは繋がったままとなる。それに対し『禁断の果実』は、ホワイトタワーの反乱軍がエデンに仕掛けたバックドアであり、エデンのデータベースを改ざんすることができる。エデンにとって『禁断の果実』」とは本物のテロリズムである。そのため連盟管理委員会は『禁断の果実』を何としても手に入れなければならない。
『禁断の果実』は高度に暗号化されたファイルとして湛盧に保存されていた。『禁断の果実』を所有しているがゆえに、陸信は死ななければならなかった。そして林静恒も死を運命づけられていた。
林静恒「(なぜ彼は『禁断の果実』でエデンを遮断しなかったのだろうか。なぜ彼は俺に何も明かすことなく死んだのか・・・)」
エデンを遮断する機能以外のデータベースは全てロックがかかっていて、林静恒も湛盧でさえも、解除権限を持っていなかった。湛盧にそのように設置できたのは、陸信だけだ。
ウルフ「あの子を守るため、陸信は全てを秘密にしていたようだ。連盟管理委員会との様々な関係も・・・そして、『禁断の果実』リストのことも」
ワン・アレン「(陸信は逃亡を決断した時、どんな気持ちだっただろうか?彼は連盟に忠誠を誓い、命を懸けて戦った。すべての民の自由と平等の追求に人生を捧げた。しかし、まさにその民によって有罪判決が決定づけられていたのだ。幼い林静恒にどう説明すればいいのか分からず・・・そしておそらく彼自身にも理解する時間はなかったのだろう。)」
湛盧を修復した陸必行は『禁断の果実』システムの暗号を解読した。『禁断の果実』リストを見た陸必行は、もし自分がホワイトタワーの長なら、自分も離反するかもしれないと感じた。誰が裏で海賊と共謀しているのかが一目瞭然だった。
悪意のない者が『禁断の果実』を私的に管理するはずがない、と連盟管理委員会は考えていた。
しかし『禁断の果実』を保持していたにもかかわらず、『彼』だけはそのリストに載っていなかった。

300歳を超えるウルフ元帥は、連盟の創始者であり、『自由宣言』の主要発起者の一人だ。烏蘭学院の初代学長でもあり、軍事委員会で名が挙がる者全員が彼の教え子だった。
ウルフは長年連盟に身を捧げ、名声や富を追い求めることも、何かを欲することもなかった。
ハリスは、ホワイトタワーの悲劇を理解できるのは、ウルフ元帥だけだと考えていた。しかし今、何も望まない人が必ずしも聖人ではなく、狂人である可能性もあることを悟った。
ウルフ「君と静恒は、この連盟が陰謀と嘘の上に築かれていると感じているに違いない。どちらも既存の平和を乱してはいないが、このような平和を軽蔑している・・・
だが、それは間違っている。世界は陰謀と嘘の上に築かれているものだ。しかし、決して世界は醜いものではない。」
ウルフ「林静恒には英雄のように生き、英雄のように死んでくれることを願う。」
ウルフの配置はチェスに似ており、駒よりも位置を重視する。全体的な状況がコントロールされている限り、彼は容赦なく駒を犠牲にする。
林静恒「ウルフ元帥、これがこの世界のためにあなたが書いたシナリオなのか?」
もし彼が自由宣言を放棄し、本来の夢に背くのなら、陸信、白銀十衛、そして今もなお宇宙で血を流しながら戦っている者たちは一体誰のために戦っているのだろうか?
林静恒「ウルフは司令官であり、狂人ではない。そこまで偏執的になることはないだろう。」
トゥラン「あなたはまだウルフが狂っていないと信じているのですか?」
林静恒は答えなかった。
トーマス・ヤン「覚えているか?林将軍は言っていた。ウルフ元帥は連盟の最後の守護者となるだろう、彼は最後まで戦うだろうと。今でも彼を信じているのか?」
ポアソン・ヤン「まだ彼を信頼できるか、と問うのか?」
ポアソン・ヤン「それが真実か偽かということは・・・重要なのか?」
真実は重要なのか?
ウルフ「連盟がエデンの悪夢から目覚めることを願う。連盟軍と各星系の中央軍が、互いに牽制し合い、均衡を保てることを願う。歴史の逆行は我々の世代で終わり、あなたたち、つまり “ 生き残り ” が新たな道を切り拓くことを願う・・・」
『自由宣言万歳』 ― ヒューバート・ウルフ ―

林静恒「旧星暦時代には、AIの悪用が多くの災難を引き起こした。そのため、AI分野は厳格な政治的審査の対象となり、頻繁に調査と停止が行われている。しかし300年の発展を経ても、通常の稼働AIはハッカーの攻撃を受けやすい。セキュリティインシデントが発生すると、人間によるチェックが追加されることもある・・・。」
『AI兵士部隊は数字を埋めることしかできず、自立することはできない』というのが、人々の共通認識だった。
トゥラン「役立たずなアレス・リー将軍に白銀要塞に残っていた者は誰も従わず・・・奴は独断でAI兵士部隊を投入しました。あの日のパトロール隊もAI兵士だったため、ハッキングされたのです。」
湛盧「機甲コアである人工知能の私の体は特殊な変形可能素材で作られており、1グラムあたり600万連盟コインの価値があります。」
湛盧に腕を掴まれていた陸必行はその言葉で動けなくなり、湛盧のうぶ毛さえ飛ばしてしまう事を恐れて息もできなくなった。
湛盧「ペットを飼うことは心身の健康に良いことです。あなたが好きな小動物を飼うことを全面的に支持します。」
リビングルームには、高さ3メートル近くもある巨大な水槽が置かれ、机の上にはカメレオンが横たわり、机の下では体長1メートルほどのニシキヘビが、愛おしそうに陸必行の足に巻き付いていた。
陸必行「湛盧、鱗のない哺乳類を飼えないの?いつか君をリセットしなきゃ」
湛盧は、猫や犬といった哺乳類のペットは、破壊的で毛が抜けやすいためペットとしては不向きだと固く信じていた。
林静恒「なぜ陸必行のインキュベーターを爆破したんだ?」
湛盧「レプリカが本物のあなたに取って代わることはできないでしょうし、クローンはより個性的です。いかなる法制度においても禁じられ、道徳的にも限界があり、多くの倫理的問題を引き起こすでしょう。彼を慰めるどころか、実際にはより複雑な精神的問題を引き起こすでしょう。まるで渇きを癒すために毒を飲むようなものです。」
陸必行「あれは何だ・・・機甲の群れか?」
湛盧「彼らは私の兄弟です。」
ロン・ユエン「こんにちは、湛盧」
湛盧「こんにちは、ロン・ユエン」
ロン・ユエン「私は秘密裏に改造され、自分の機甲を自由に操れるようになった。だが湛盧、君の状態は少し深刻そうだな」
湛盧「はい、私の精神網は損傷しており、完全に修復されていません。機甲コアの素材はまだ実験段階であり、機甲本体は回収された中古品です。しかし、マスターはそれでもあなたを倒せると評価しています。」
陸必行「・・・・連盟のトップAIはみんなこんなに正直なのか?」
林静恒はこの質問にはあまり答えたくなかった。
ロン・ユエン「「林将軍、あなたは強いですが、人間は機械より強くはありません。我々は無敵なのです。」
トゥラン「『十大名剣』の正体を知るには絶好の機会だ!」
湛盧は彼女に手を振った。「それはロボットアームですよ。」
承影「湛盧、また洗濯機から降ろされたのか?」
承影の人格は誰が設定したのか不明だが、皮肉が強すぎるため、湛盧の権限を委ねられていなかったら、林静恒は承影を選んでいたのではないかと言われていた。
湛盧「承影、洗濯機には電子執事は設置されていませんよ。私が管理しているのはスマートキッチン、空調換気システム、総合清掃システム、そして入退室管理システムです。あなたの視野は狭すぎます。」
承影「・・・・」
陸必行はこの野心のない機甲コアを見つめ、ため息をつくことしかできなかった。「湛盧はもう『ファミリー機甲』になりつつあるな」
トゥラン「・・・ああ、親愛なる湛盧よ、おまえは十大名剣の中でも、本当に稀有で汚れのない花だ」
ウルフは、『無許可フレームワーク』を持つ自立型人工知能が作られれば、元の意図がどれだけ良いものであっても、どれだけ人類の友のように見えても、プログラムが人類への愛に満ちていたとしても、最終的には人類の敵になってしまうだろうと述べていた。
湛盧のような『最強』AIでさえ、『許可フレームワーク』内で動作する。起動するには必要な権限を持つ『所有者』が必要だ。人間の制御がなければ、AIは役に立たず、AIの存在そのものを根底から覆すのだ。
林静妹「人間はAIを心理的な負担なく削除でき、それを残酷だとも殺人だとも思いません。逆もまた同じです。」
人間には弱点があるが、人工知能には弱点がない。
人工知能は休む必要ないが、人間がどうしてそんな状況に耐えられるというのだろうか?
ハーデン「自律型AIが作られた瞬間、それはもはや創造主のものではなく、別の種族となる。高度な知能を持つ二つの種族は共存できず、戦争は避けられない。これは常識だ!」
自律型人工知能の恐ろしい点は、その自律性にある。AIには人間性が欠けているため、明確な論理と優先順位に基づいて動作する。自律型AIの最優先事項は、常に自身の生存と拡大である。
ハーデン「・・・自律型人工知能にも弱点はある。」