アニメ魔道祖師
<完結編第十話~第十一話>
用語・補足説明
アニメ『魔道祖師』のエピソードごとに
【魔道祖師】
完結編<第十話>憎しみに生きて
金凌「なぜ血の池に屍がいる!?乱葬崗の屍は全部焼いたはずじゃないのか!?」
当時を知る者の中に、口に出して言える者はいなかった。
「(あれはかつて乱葬崗にいたあの温氏残党たちだ・・。討伐で奴らを殺したあと、死体をすべて血の池の中に放り込んだんだ!)」
「夷陵老祖と温氏に助けられるとはな」
多くの者は、なんとも言えない気持ちを味わっていた。大々的に騒ぎ立てて滅ぼしに来たのに、逆に滅ぼされそうになった。しかも、「害」を除くと言っていたのに、最後はその「害」に頼って命を救ってもらった。それが滑稽なのか、ばつが悪いのか・・夷陵老祖にありがとうと言うのか?それはまったく話にならない。
少しばかりいいことをやって悔い改めたと示せば、奴が犯してきた無数の人殺しの罪を帳消しにできるとでも・・?
魏無羨「俺を許せとは言ってない。俺がやったことは俺も覚えてる。俺だってお前らよりもっと忘れられないんだ」
【郯城(たんじょう)で救った女子(おなご)】
道中殺されたのは妓女だった思思(スースー)。
11年前の芳菲殿。妓女たち二十人ほど、それも年を取っているか、思思のように顔に大きな傷があったりと、『値打ち』のなくなった者ばかりが仕事だと言われて連れて行かれた。そこに縛られて横たわっていた人は、前もって言われた仕事内容に適さない、今にも死にそうな病人だった。彼女たちは逆らうことも出来ないまま、休まず奉仕を強要され、その男が亡くなると、思思以外の者は全員殺された。思思はそれ以来ずっと閉じ込められていたが、最近になって偶然誰かに助けられ、逃げ出したという。
金夫人は一人息子とその嫁、そして金光善の死とその腹上死という外聞の悪い死因に怒りのあまり寝込み、金光善の死後そう経たずにこの世を去っている。
碧草(ピーツァオ)
楽陵秦氏秦夫人の元侍女
先代金宗主は秦夫人の美貌に執着し、ある時無理やり関係を持った。夫人は抵抗出来るわけもなく、金光善に忠誠を尽くしていた先代秦宗主に知られることを恐れ、誰にも言えずにいた。秦愫が金光瑤に恋心を抱いているのを知り、かなり長い間苦しんで婚礼前にこっそり金光瑤に会いに行き、事情を打ち明け、婚姻の取り消しを求めた。金光瑤はそれでも秦愫を娶った。塞ぎ込んでしまった秦夫人は心の病に侵され、息を引き取る前に碧草にすべてを話した。
当時金光瑤の息子阿松を毒殺したのは、見張り櫓建設に反対していた宗主だと言われていた。金光瑤はいずれなんらかの違和感が出る可能性のある兄妹の子供を殺し、自分に歯向かう宗主に濡れ衣を着せ、復讐という名目で正々堂々と従わない世家を討伐したということになる。
【二人の女の謎】
なぜ思思だけがこれまで生かされていたのか。なぜこれまで長い間秘密を守ってきた碧草が、今になって急に秦愫に真実を告げ、公にしようと思ったのか。また、秦愫に真実を伝えればどれほどの衝撃を与えるか、本当にわからなかったのだろうか?
碧草の手首に翡翠と金で作られた腕輪がはめられているのが魏無羨の目に入った。それは極めて純度の高い品で、けして彼女が身につけられるような代物ではなかった。
風邪盤の連結術で蘇渉の後を追う。
<雲萍城 観音廟>
点穴(てんけつ)で霊力を封じた・・ツボを衝いて経脈を遮断し、霊力を封じた。
金光瑤「兄様の首が消えたのだ。思思の軟禁場所も見つかってしまった。ここに埋めたモノは私の命だ。念には念を入れなければ」
掘り出された豪華な棺を開けると煙が上がる。蘇渉が立ち塞がったが、金光瑤の左腕は毒によりただれてしまった。中のものは既に何者かによって持ち去られていた。
穴道(けつどう)・・ツボ。
「お前みたい奴が・・まさかそんなくだらない理由で」
千瘡百孔の呪いをかけた当時、蘇渉はまだ金氏の配下には属していなかった。呪いは、蘇渉の独断であった。
蘇渉は彩衣鎮で剣を飛ばして失くし、屠戮玄武の洞窟では綿綿を押し出し、魏無羨に矢を当てた、あの藍氏の門弟だった。彼によれば、藍忘儀もまた『恵まれた家柄に生まれただけで、人を見下した傲慢な輩』なのだ。
彼のように狭量(きょうりょう)(心が狭い)で些細な事でも根に持つ者が頻繁に金鱗台に訪れるようになれば、思い上がり他者を軽視する横暴で傲慢な金子勲との間で何かがあっても不思議ではない。
であれば、魏無羨は呪いの件とは一切関係なかったことになり、また彼を陥れるためではなかったということでもある。
窮奇道奇襲の最初のきっかけは、まさしく金子勲が千瘡百孔の呪いをかけられたことだ。その始まりがなければ、蘭陵金氏が魏無羨を奇襲するための口実はなく、温寧が暴走して殺戮を犯すこともなく、・・その後に続く多くの出来事も起りはしなかったはずだ。
「その考えは間違っている」
金光瑤「魏公子、あなたは至るところで敵を作る。何か思わぬ事故が起きたり、誰かに陥れられるようなことがあれば、真っ先に疑う相手はあなたで、一番報復したい相手ももちろんあなたです。こればかりはあなた自身でどうこうできる問題ではありません。」
江澄「この、妓女の子め!」
金光瑤の笑顔は一瞬固まる。
金光瑤「江宗主、魏公子が前世であのような末路を辿ったのは、あなたにも責任があるんですよ。なぜ大勢の者が夷陵老祖を討伐したがったのでしょう?なぜ彼が一方的に誰からも忌み嫌われていたんでしょうか?
一人で蓮花塢を立て直したばかりのあなたの後ろには、底知れぬ力を持つ夷陵老祖がついていた。他の世家たちがそんな恵まれた若き宗主を見て喜ぶとでも思いますか?どうにかしてあなたたちを決裂させようと煽り立てました。江氏の勢力が増すのを阻止すれば、自らの勢力を伸ばすことに繋がるのですから。」
金光瑤「私は自分がやったことは否認しません。しかし、父を殺し、妻を殺し、子を殺し、兄を殺したことがやむを得ずやったことではないとしたら、なぜ私がそうしたと思うのですか?二の兄様、まさかあなたの中の私はそこまで理性を失った人間なのですか?」
魏無羨「金子軒を窮奇道に誘い出したのもわざとか?」
金光瑤「金子軒には確かに偶然見破られたわけではありません。しかし故意にその後のすべての出来事を企ててはいません。」
金光瑤「父親に対しては期待を抱いたこともありました。でも私を完全に失望させたのがなんだったかわかりますか?なぜあそこまで湯水のように金を使う大宗主が、私の母を身請けしてくれなかったのか。答えは簡単で、ただ面倒だったからです。」
過去「孟瑶だと?奴の事には触れるな」
金光善「女はな、自分を綺麗に着飾ってれば十分だろ?才女?女はやはりああいった身の丈にそぐわないことはしない方がいい。大抵自分は他の女より上だと思い込んで要求はするし、あれこれ空想はするし、一番面倒だからな。どうしても息子を産みたがって、妓女の子のくせに、あんなことを望むなんて・・」
妓女「金宗主、誰のことをおっしゃってるんです?誰の息子ですか?」
金光善「息子?はぁ、もうやめよう」
この観音廟はもともとは金光瑤が育った妓楼だ。金光瑤は自分の痕跡を消すために火を放って燃やしたあと、焼け死んだ者たちの怨霊を鎮圧するために観音廟を建て、そして母親の死体を埋めた。金光瑤は母親の死体を持ち出して一緒に東瀛に渡るつもりだったと言う。
金光瑤「私は東瀛に渡り今生二度と戻らない覚悟です。どうか命だけは助けていただけませんか?」
金光瑤は陰虎符を掲げる。
完結編<第十一話>蔵鋒(ぞうほう)
「わざわざあんな強力な陣は敷かないだろ?」
観音廟には鎮祟古陣 (ちんすうこじん)が敷かれていた。鎮祟古陣は通常怨念を鎮めるための正道の陣ではなく、魏無羨が奥義書に描いていた陣。陰虎符で操るための桁違いの屍を抑えていた。
「首が元に戻り、怨念が高まった」
温寧「若様、気をつけてください・・彼の怨念は並大抵のものではありません・・」
温寧もただならぬ力を持つ凶屍とはいえど、怨念は聶明玦ほど深くも強くもない上、体格も彼より劣る。
聶明玦はもはやこの上ないほど強い怨念に支配されている。彼の仇である金光瑤に対して当然怨念が最も強いはずだが、凶屍は人を区別する時に目を使わない。金光瑤と金凌は非常に近い血縁関係にあり、人ならざるモノからすれば、この二人の呼吸も血気も似通っている。意識が混濁している状態の聶明玦に二人を見分けることは難しい。聶明玦が金凌を襲う。
【拳の一撃が温寧の胸を打ち抜く】
金凌は当時自分の父親の心臓を貫いた下手人であり、凶器である温寧を激しく憎み、子供の頃から数えきれないほど誓いを立ててきた。いつか機会があったら必ず魏無羨と温寧をずたずたに切り刻んでやると。だが、もう魏無羨を恨みたくなくなってしまったため、その代わり温寧を二倍憎むようになった。しかし今この瞬間、その彼が目の前で父と同じく拳で心臓を貫かれるのを見て、抑えきれない涙を溢れさせる。温寧は死人で、これくらい大したことがないのはよくわかっている。それなのに。
江澄「魏無羨!!」
投げられたのは鬼笛陳情。乱葬崗討伐後、金光瑤は随便を、江澄が陳情を持ち帰った。魏無羨はとっくに剣を使っていなかったし、封剣していたため、金光瑤も剣より陳情が欲しかったのだが、江澄はもし魏無羨が戻ったとしたら、剣は取りに来なくとも必ず陳情は取りに来ると信じ、誰にも渡さぬ勢いだった。
「沢蕪君、早く離れろ!」
金光瑤は自らの血を聶明玦を封じた呪文の上に落とした。彼は最後の力を振り絞って藍曦臣を聶明玦のところへ引き寄せ、道連れにするつもりなのだ!
呪文が破壊されると、封印されていた聶明玦の怨念が棺を破って出てくる。藍忘儀が避塵を飛ばしたが、聶明玦は仙器の類を恐れはしなかった。
しかし、あと少しというところで、金光瑤は藍曦臣をその場から突き飛ばす。
藍忘儀が倒した観音像が、聶明玦と金光瑤を再び棺の中へと戻すようにのしかかる。魏無羨は壊れた棺の蓋の代わりに観音像を蓋とし、封印した。
凶屍たちの戦いは雷雨を呼んだ。
藍曦臣「彼は一体何がしたかったのだろうか・・」
金光瑤と親しかった彼にわからなければ、誰もその答えを持っているはずがなかった。
金凌は小さな仙子を抱えてきた時の金光瑤を思い出す。当時十歳足らずだった金凌は、癇癪をおこしてあらゆる物を投げつけていた。恐れて誰も近寄らなかったが、金光瑤だけは違った。
金光瑤「こんな小さなものを見つけてきたんだけど、阿凌、君が名前を付けてくれないか?」
あの時の笑顔は優しく、真心がこもっていて、金凌には作り笑顔とは到底思えなかった。
<雲夢 蓮花塢>
「生きた人間も操れるのか」
陰虎符が怨念を吸い過ぎないようにしていた封印の陣が少し破られていたのは、温寧一族の誰かが薛洋の釘で操られてのことであったならば納得がいく。また、秦愫の自害も。
「なぜ思思を殺さなかったんだと思う?」
思思は金光瑤の母親の友達で、この親子の面倒をよく見ていた。母親は花柳の才女として有名だったため、子を産み、年齢を重ねても意識を変えられず、『お高くとまっている』と客からも仲間からも罵られた。客から暴力を受けていたところを、思思が庇ったようだ。
その後思思は嫁ぐ話があったものの相手方身内から暴行を受け、顔に刃物で切られた大きな傷が出来て婚姻はなくなり、『値打のなくなった者』として扱われていた。
【黒幕は・・】
聶懐桑は莫玄羽を知らないようだったが、莫玄羽は金光瑤につきまとい、収蔵していた手稿まで読めるほどの間柄だった。蘭陵金氏をしょっちゅう訪ねていたのに本当に彼を知らなかったのだろうか。
莫玄羽は気が小さく臆病者だったと皆が口を揃えて言う。では一体どこから自決して献舎する勇気が出たんだ?
聶明玦の左腕はなぜ莫家荘に都合よく現れ、復活したばかりの魏無羨に出くわしたんだ?聶明玦の死体は清河聶氏によって埋葬されていたにもかかわらず、聶懐桑は死体がすり替えられていたことに本当に気づかなかったのか?
たぶん聶懐桑は全て知ったのだろう。聶明玦の死体がすり替えられていたことも、金光瑤の本性も。
死体を探そうと試みたが、数年費やしても左腕一本しか見つけられず、しかも、その左腕は尋常でなく凶猛で制圧が難しい。そこでこのようなモノの対処や、こういった問題を解決することが最も得意な誰かを思い出した。
――夷陵老祖
しかし彼は既に死んでいた。そこでもう一人、金鱗台から追放された莫玄羽を思い出し、彼から金光瑤が持っていた禁術の本や古い邪術が書き記されていたことなどの情報を得たのかもしれない。
そして一族に虐げられていた莫玄羽を献舎の禁術で報復するようにそそのかした。
そこから計画は無事始まり、危険で面倒なことは魏無羨と藍忘儀に任せればよかった。
温寧を解放し、金子勲の首を懐蒼山へ放ち、猫の死体を使って世事に疎い世家公子たちを義城に誘い込み、観音廟にも誘導した。もし義城で若い公子や門弟たちの身に何かあったら、その責任までも金光瑤に背負わせるつもりだったのだろう。
思思を逃がし、碧草に告白させ皆の怒りを爆発させた。金光瑤が地位と名誉を失うだけでなく、仙門百家と敵対させ、一度で致命的なまでに叩きのめした。
――または事態はそこまで複雑ではなく、聶懐桑以外の者の仕業なのかもしれない。最後の金光瑤の言動も、不意打ちしようとした企みを聶懐桑に暴かれたことで、とっさについた嘘なのかもしれない。
推測はただの推測にすぎず、誰にも証明はできない。