残次品~放逐星空
(ざんじひん~ほうちくせいくう)
用語・補足説明

<エピソード6> 重なるDNA
林静恒「湛盧」
彼らを攻撃してきた操縦士は、明らかに精神網を奪われていた。他の機甲の精神網を奪うには、自分が接続している機甲を介する必要がある。これはハッカーが電子機器を使う事によって、他の電子機器をハッキングすることが出来るのと同じだ。
さらに遠隔接続となれば特殊な設備と技術が必要であり、かつ簡単な操作しか行えないため、通常は機甲の精神網を介しても他の機甲を操ることなど不可能だった。
つまり、林静恒は誰にも見えない、そして一般的ではない機甲に接続していたことになる。

陸必行「彼を“ 湛盧 ”と呼んでた?」
湛盧は様々な軍事手法に精通し、生活管理機能も備えていた。これは『機甲コア』にしかできないことだ。人間と変わらない人型形態を持つ湛盧のような『機甲コア』は、極めて高度な技術を駆使しているに違いない。連盟の機甲である可能性が高い。
陸必行「――湛盧、彼の名前も湛盧だった!」
『湛盧』は珍しい名前ではなかったため、湛盧とあの機甲を結びつけたことはなかった。陸必行は彼が優れたAIであることは知っていた。しかし、湛盧がどこから来たのかは考えたことがなかった。
それに連盟機甲の湛盧の主人はすでに・・・
陸必行「君は連盟最強の戦士林上将だね?」
陸必行は十代の頃、連盟写真集の最後のページに載っていた若き将軍林静恒に心を奪われた。まるでモデルのようだった。表情は冷たく、その眼差しは遠くを見つめているようで、孤独で、何とも言えない物憂げさを漂わせていた。
【林静恒上将の死】
林静恒の死はエデンによって確定されていため、間違っているはずはなかった。エデンに確定された死は、肉眼で死体を見るよりも信頼できるものであったのだ。エデンのシステムは彼を検知できず、だからこそ彼は死亡したと宣告されたのだ。つまり、この人物、この精神、この魂は脳波さえも残さず、この世から完全に消え去ったということを意味していた。

「毒巣を爆破した?」
噴出した巨大なエネルギーは機甲の防護シールドを80%以上も損傷させ、機体後部は炎に包まれた。林静恒は冷静に予備エネルギーを切り離し、爆発のエネルギー波を利用して速度を上げて炎から飛び出し、第八星系の広大な星の海に向かって飛び去った。
001は時間を計算し、使い捨ての実験体を使って第八星系の主要人物を宇宙ステーションに閉じ込め、自分が逃げ出した直後に爆破して宇宙の塵とするつもりだったようだ。
林静恒「違法チップを摘出しろ」
林静恒は「チップにはかなり中毒性がある」と考えていた。エデンが創設される以前、それが中毒性を持つかどうかについて議論が繰り広げられ、厳格な規制法が制定されて初めて試験的に運用されたのだが、今日では中毒性があるかどうかという問題はもはや重要ではなく、エデンは生存に不可欠なものとなっていた。しかし、エデンはあくまで監視下に置かれていた。
この違法チップは第八星系だけに存在していたのだろうか、それともひっそりと連盟全体に拡散されているのだろうか?
【極限モード】
エネルギーレベルが一定値を下回り、機甲のほとんどの機能が強制的に停止する状態。
操縦士と機甲の両方が最期を迎える時の最後の機能であり、設定は機甲の所有者の死に対する考え方が反映されていることが多い。
湛盧は陸信将軍から林静恒に託された機甲で、林静恒はまだ極限モードを設定していなかった。
湛盧「雑談が出来ます」
湛盧「歌も歌えます」
林静恒「・・・・」
この『伝説の機甲』湛盧の極限モードにそのような設定をしたとは。
陸信は根っからのロマンチストだった。おそらく死ぬ前におしゃべりがしたかったからだろう。だが結局、『極限モード』機能を使用することができなかった陸信は、孤独な死を遂げたに違いない。
林静恒は33年前の雨の夜を思い出した。
陸信は捜査のため自宅軟禁されており、機甲「湛盧」は烏蘭学院に格納されていた。
林静恒は陸信に対して逮捕状が出たという知らせを受け、湛盧の機甲コアを学院から盗み出すと、研究所のワープを利用してセキュリティゲートを強引に突破、陸信の元へ走った。
当時の彼は陸必行の生徒たちと同じくらいの年齢で、若くて軽率、そして大胆であった。
林静恒は3回ワープに失敗し、陸家の近くに辿り着いた時には脊椎に重傷を負っていて、腰から下の感覚がなくなっていた。
林静恒「時間がない、湛盧はここです。逃げてください!」
陸信は非常に驚き、怒って彼を医療ポッドへ強制的に突っ込んだ。陸信は真夜中なのになぜか軍服に着替えていた。林静恒は嫌な予感がしたが、麻酔と鎮痛剤ですぐに体の感覚を失ってしまった。
陸信「理解できないことが山ほどある。もうこれ以上対処できないんだ。湛盧をお前に託す。そして、お前を連盟に託す。」
陸信「いつになったら大人になるんだ・・・?」
その声はどんどん遠ざかり、まるで幻覚のようだったが、陸信のため息とそんな言葉が聞こえたような気がした・・・
林静恒は密かに烏蘭学院に送り返され、そのまま医療ポッドに三日間閉じ込められていた。必死に扉を叩き、隙間を引っ掻き、指先は血だらけになったが薬の効果ですぐに回復するのだった。
その後聞いた話では、陸信は違法機甲に乗って逃亡。薔薇之心で追跡してきた連盟の重ミサイル3発が彼の機体に命中し、広大な宇宙へと粉々に砕け散ったらしい。
林静恒「設定は変更できるのか?」
湛盧「もちろんです」
「では・・・」 林静恒は言葉を詰まらせた。もし自分が死に直面したら何を望むだろうか? 林静恒はためらうことなく答えることができた。もちろん、できるだけ多くの敵を殺して利益を得たい。だから機甲の極限モードの設定は・・・自爆だ、と。
しかし・・・湛盧はあの人から遺されたものだ。
