残次品~放逐星空
(ざんじひん~ほうちくせいくう)
用語・補足説明

<エピソード7> さらば北塔星

人類の未来はどこへ向かうのか?
“ 適合率100% ”
生態ポットの遺伝子ロックは、陸信夫人が妊婦検診で残した胎児の遺伝情報を利用していた。5年前、死を目前にしてなお林静恒は第八星系へ行こうと、生態ポッドの位置座標を独眼鷹のいる凱菜星に設定したが、偶然にも北塔星の近くで陸必行が生態ポットを開けたのだった。これは神の意志だろうか?
5年間、林静恒は陸必行の素性に幾度となく疑念を抱き、幾度となく失望させられてきた。黒洞の実権を握ったのも、以前独眼鷹が黒洞と取引していたからであり、手がかりを掴むためであった。
林静恒「だがなぜ 体と脳のDNAが一致しない?」
湛盧「可能性が多すぎて、現時点では判断できません」
林静恒は少し間を置き、独り言のように言った。「あいつは陸信に似ていると思うか?・・・俺は思わない。」
湛盧「陸校長と陸信将軍の顔の特徴を分析して比較しましょうか?」
林静恒「・・・いや。」
林静恒「湛盧、今日のデータ、俺がおまえに話したこと、医療情報、精神網のマッチングデータ、遺伝子比較結果など全て最高レベルで暗号化しろ」
湛盧「しかし、陸校長はまだ陸信将軍との血縁関係を知らないかもしれません。」
林静恒「知らなくていい」
独眼鷹「俺にも操縦させろ」
独眼鷹は林上将の功績は評判に見合うものではなく、軍事委員会の広報が見目の良い少年を選んで作り上げた単なる『イメージ』に過ぎないと常に偏見を抱いていた。『15機の機甲を一度にハッキング』はすごい事かもしれないが、彼の機甲は湛盧だ。そんな連盟軍の最先端兵器を使えば、星際海賊を倒すぐらい能無しでなければ誰でも簡単にできるだろう。
だが、この簡素な小型機甲は湛盧ではない。同じ機甲に乗っている今、独眼鷹は彼に手を貸すことにし、機甲の精神網に接続して『副操縦士』になろうとした。
林静恒「引っ込め」
機甲の精神網は独眼鷹を侵入者と見なし、強制的に接続を断ち切った。独眼鷹は頭にまるで鋼鉄の針を突き刺されたかのような激痛に襲われ、気を失いそうになった。
林静恒「今回は警告だ。次は――手加減しない。」
自発的に精神網のリンクを解除した時とは違い、強制的に離脱させられた者は強烈な激痛と深刻なダメージを受け、脳死を引き起こす可能性もある。001のように精神網を奪われた者が意識を失うのはこのためだ。

林静恒「凱菜親王の護衛部隊だ。」
凱菜親王は100年以上前、連盟の自由宣言を掲げた陸信将軍に第八星系の外れへと追い詰められた。
独眼鷹「第八星系は偽善的な連盟の犬野郎を嫌ってきたが、当時は凱菜親王を倒すために俺たちは陸信を信じたんだ。」
凱菜親王とその長男は護衛の反乱で殺害されたが、残った次男が凱菜親王の称号を継承し、凱菜親王護衛隊を再結成していた。
連盟自由宣言・・・魂は高貴に生まれ、すべての人は自由かつ平等であると述べられている。
彩虹(ツァイホン)ウイルス
かつて第八星系に君臨していた凱菜親王は、300年の寿命では足りないと人体実験者を行い、10万人ほどの死者を出した。そして第八星系に飢餓が起きると偽善的に災害救援隊を組織して、人体実験した遺体を圧縮栄養食として利用した。しかし消毒作業の過程を怠ったために実験時の人工ウイルスが漏れ出し、第八星系に大規模な疫病を引き起こし、少なくとも3億人の命を奪った。そして散発的な症例が連盟にも流入した。この『彩虹ウイルス』は人類史上最も衝撃的な疫病であり、また小型人工知能が埋め込まれた『人類の知恵』の産物でもあった。
6年後首都星で彩虹ウイルスの特効薬とワクチンが開発され、陸信将軍が第八星系に持ち込んで大惨事から救った。
陸必行「連続ワープでエネルギー不足だ」
通常のワープ地点からワープする場合には自身のエネルギーは消費しない。しかし、緊急ワープは異なる。機甲がワープ地点にいない場合は自身のエネルギーを消費して、最も近いワープ地点に自らを移動させなければならない。
このプロセスにおいて、操縦士の精神閾値が低下し、機甲間の精神網接続が切断してしまうことがよくある。
【廃棄された補給所】
第八系統の密輸ルート上にあるこの補給所には、第八星系を網羅するほどの非合法な通信ネットワークが張り巡らされていた。かなり高度なものだ。
陸必行「(こんなにエネルギーと物質の蓄えがあるのに、なぜ武器の在庫が空なのか・・・)」
陸必行は管制室のあらゆる機器を見渡した。メインフレームの製造年は新暦200年となっていて、いまだスムーズに稼働していた。つまり、ハードウェアとソフトウェアは常にメンテナンスとアップグレードが行われており、この補給ステーションは最近まで使用されていたようだ。それなのに、なぜ彼らは星艦一隻分を支えるほどの物資を残し、武器はすべて持ち去ったのだろうか?

『北塔号』
林静恒の小型機甲の名前。名付けたのは陸必行。一般的には湛盧のような重装甲にのみ名前とシリアルナンバーが付けられる。この模型のような人工知能を持たない機甲に名前など必要なかった。
陸必行「サインいい?」
陸必行は林静恒に質問したいことがたくさんあった。彼が記憶している限り、連盟は繁栄を誇ってはいたものの軍事委員会の力は徐々に衰えていた。しかし林上将の功績だけは数多くニュースで目にし、彼が白銀要塞を統治し始めた直後から星際海賊のテロ攻撃と連盟軍の死傷者数が激減していることに陸必行は気付いていたのだった。
陸必行は、連盟が詳細に報道していなかった戦闘に多くの疑問を抱いていた。それに湛盧は本当にあの『湛盧』なのだろうか?5年前の薔薇之心襲撃事件の真相は?そして何よりも、どうしてエデンを欺き、姿をくらますことが出来たのだろうか?
しかし、林静恒が正体を明かす気があるのかどうか確信が持てなかった。彼はかつて連盟の上将でありながら死を偽装して連盟を脱退し、辺鄙な第八星系に5年間も留まっていたのだ。きっと多くの困難や事情を抱えているのだろう。林静恒のように内向的な人は、自分の流した血や涙を他人に見せることを好まないかもしれない。
それらを考慮した陸必行は、好奇心を抑えて冗談で言ってみたのだ。拒絶されるのを覚悟して。
林静恒は一瞬唖然とし、辛抱強く答えた。「ああ どこに?」
陸必行「(・・・どうして急に優しくなったんだ?)」

凱菜親王アレス・フォン
アレス・フォンは逃亡中に彩虹ウイルスに感染したと伝えられている。域外では十分な医療を受けられず全身に壊死が広がり、人工器官の使用を余儀なくされたため、半身が機械化している。
アレス・フォン「お前たちは70年近く第八星系を統治し、連盟の搾取や侵略から解放された楽園で暮らせるようにしてやったわが一族を裏切り、連盟の犬を連れてきて父と兄を殺し、私を辺境へと追いやった。連盟に服従してからこの100年、お前たちの人生は良くなったのか?連盟はお前たちに自由と尊厳を与えたか?砲火の中、苦痛の叫び声を上げたら、偉大なる連盟の救世主はお前たちを救うために誰かを送ってくれるのだろうか?」
ペニー「お嬢さんじゃないけど、確かに未婚だわ。」
ペニー「四哥のところに女性が入る余地はあるかしら?」
四哥はイエスともノーとも言わなかった。ペニーは彼の沈黙から彼の意図を理解したのだった。
