残次品~放逐星空
(ざんじひん~ほうちくせいくう)


人類の未来はどこへ向かうのか?<その1>
陸必行「ただ想いを伝えたい 僕はつらかった」
林静恒は一瞬驚いたが、すぐにその表情を隠し、何も言わずに踵を返して歩き去った。
陸必行「まだ奥の手も使ってないのに、もう退却してる・・・」
陸必行は、観察と合理的な推測の結果、自分が林上将の弱点であることを発見したのだった。

陸必行「二人とも!何でまた喧嘩してるの?」
独眼鷹「おまえには関係ない!」
林静恒は陸必行に優しく尋ねた。「気分は良くなったか?」
独眼鷹は我に返り、園児が泣き出しそうな優しい笑顔を無理やり作った。
「父さんは今、おまえのことなんて何も言ってないぞ」
独眼鷹は父の精神年齢が200年間も10歳児レベルの『永遠の若さ』を保っているのを感じた。
陸必行「父さん、僕たちは他人の機甲に乗ってるんだ。頼むから良い子にして」
独眼鷹「・・・・・」
陸必行「まずは挨拶してみようかな。力ずくでいく前に礼儀を尽くしてみたらどうだろう?」
独眼鷹「俺は、先に手を出してきた奴らとは決して議論しないがな!」
「やってみろ」林静恒は陸必行に同意した。
独眼鷹はすぐに口調を変えた。「・・・まあ、試してみてもいいがな・・・。」
独眼鷹は陸必行に問いたかった。父さんとこのイケメン男が同時に水に落ちたら、おまえはどちらを先に助けるんだ?
しかし答えは知りたくないと思った。
陸必行「もう彼を恨むのはやめなよ。父さんが林を知っているという事自体が、かなり妙だ。教えてくれないならそれでも構わないけど、僕はこれからもどちらか一方を支持するだけだから。」
独眼鷹「おまえはどちらか一方だけを支持するのか!」
陸必行「林は僕の後見人で、あなたはただのケチな父親だ。しかも、彼は父さんより若くてイケメンだ。」

“ エデンは人類が想像した天国 ”
エデンは星際連盟設立年(新星歴元年)に確立した。
人間とコンピュータの大規模な『精神網(ネットワーク)』 であり、AI機器を思念で操作出来る。そして現実世界と密接に重なり合い、人間の脳の潜在能力を無限に拡張し、人類への貢献を最大限に高めることができる。
第八星系を除く七大星系では、人は生まれてすぐ法的にエデンに登録され、一生を通して最高のケアを受けることとなる。エデンが性向を感知して感覚を刺激し、ホルモンバランスを調整してネガティブな感情をも消し去ってくれる。
エデンでの基礎教育は、子どもたちの脳に6歳から毎月1回、計40回直接知識がインプットされ、この情報は脳に刻み込まれて忘れることはない。過去大多数の人が味わっていた学校教育による苦痛や、精神疾患を患うようなこともなくなった。
エデンで生まれた子どもたちは『自殺』という言葉を聞いたこともなく、その概念も持っていない。
エデンのAI医療は、医学的な健康、特に精神的な健康面で大脳をコントロールできるようになった。AI医療ポッドが人間の医師に取って代わり、脳死でもない限りどんな状況でも蘇生できるかのようだ。
人類の平均寿命は300歳に達し、そのうち200年は若い状態を保っている。
『エデン管理規則』では、エデン内のすべてのアプリケーションは、プライバシーが漏洩する可能性について公民に十分に通知し、接続前に許可を得なければならないと規定されている。しかし、通知は非常に詳細で数十万語に及び、人々は通常わざわざ読むことはない。
個人情報漏洩等問題が浮上し、エデンに対する疑念が社会問題となって世論が高まると、連盟は『敵』を特定してそれに対抗するという、正義が悪に勝つシナリオを延々と繰り返してきた。その結果、今日ではほとんどの人がためらうことなくエデンにアクセスを許可している。
そして法律は、一度制定されれば二度と破られることはない。社会の発展に伴い、人々は十分な教育を受け、幸福な日々に満足し、異議を唱えなくなる。
AIガイド「第八星系、ここはエデンのない世界です。残念ながら、今日でも何億人もの同胞がこのような環境で暮らしています。」
主要メディアでは毎日必ずと言っていいほど、第八星系の人々の窮状を嘆く記事が並ぶと言われている。
陸必行「地獄にも人は必要なんだろうね」
ハーデン「エデンの本来の目的は、人類の利益のための『善』であった。もしそれが正常に機能し続けることができれば、古来より追求されてきた永遠の幸福に限りなく近づくだろう。だが、それはあまりにも楽観的だった・・・」
ウルフ「老齢になると自分自身さえも変わってしまったことに気づく。かつて信じていたものは全て失われ、理想も信念も少なくとも百回は崩れ去った。臓器のほとんども医療ポッドで置き換えられている。過去の出来事を思い出せず、人工記憶に頼らざるを得なくなる時もある。なぜそんなに長生きしなければならないのだろうか?肉体の寿命を際限なく延ばすことに何の意味があるのだろうか?」
ローラ「私たちの思考は依然として私たちのものなのでしょうか?怒り、不安、痛み、無知は人間が克服すべき欠陥ではなく、人間の魂の本質であって、心の中にある今すぐにでも取り除きたいと思う醜いものこそが、自由意志そのものなのです!」
連盟は海賊に侵略され、首都星は陥落、エデンは崩壊した。

“ 「統一された社会には実は多くの欠点がある。
・・・破壊と死への衝動は我々の遺伝子に組み込まれている。対立は、我々の最も基本的な生理的欲求の一つだ。」 ”
連盟は『エデン』と『自由宣言』の二つの柱の上に成り立っている。
七大星系の行政機構を統括する連盟管理委員会と立法会は、本来互いに監視し合う立場だが、エデンの発展に伴い連盟管理委員会は立法会を凌駕し、究極の権威を持つようになった。
第一星系の軍事拠点である『白銀要塞』は、二つの派閥に分かれていた。10分の1は林静恒上将と直属部隊の『白銀十衛』、残りは富豪や権力者の子息ばかりだった。第一軍校である『烏蘭学院』は、もはや純粋な軍事学校ではなくなっていた。この平和な時代、難攻不落の白銀要塞は、制御が難しくて戦闘能力の低い役立たずな権力者の子弟の溜まり場と化していた。彼らの最重要任務はイメージ維持である。
連盟の戦術機甲『十大名剣』は上将以上の階級の者しか扱えない。しかし強靭な精神力を要する超重装機甲を扱える高官などすでに存在せず、林静恒を除いて自ら前線に赴くことが出来る者はいなくなっていた。『十大名剣』は湛盧を除き、自由記念日のパレードの展示品となっていた。
林静恒「陸信は連盟の自由宣言を信じていた。連盟と新星暦文明を愛し、いつ立ち上がるべきか、いつ自らの命を犠牲にすべきかを常に理解していた。」
林静恒「だが、俺は連盟を愛してはいない。」
林静恒「七大星系に軍事権はない」
軍事自治権を持たない七大星系は、自星に駐留する少数の『中央軍』に依存するしかなかった。しかし中央軍は単なる見せかけであり、白銀要塞の許可がなければ、たとえ海賊が迫っていても自力で兵力を動員することはできず、機甲格納庫を開けることさえできない。
連盟中央委員会は、軍事自治権が分散化されれば、八つの星系は必然的に崩壊することを重々承知していて、200年以上もの間、この『完璧なエデン』の下で甚大な搾取を得て、不正を抑圧してしていた。
『自由宣言』を掲げる連盟は、七大星系の軍事自治権主張を抑え込むために『悪役』を必要とした。国民に対し、「この『大悪党』に対して我々はどうすることもできないが、権力を恐れず、これからも懸命に戦い続ける」と告げる必要があったのだ。
軍事委員会は陸信上将の後継者として、軍内部の亀裂を均衡させる象徴であり、人目を引き、傲慢で、手に負えない独裁者『林静恒上将』を必要としたのだった。
彼は長年、意図的にそのイメージを維持し、あらゆる政党の間を渡り歩いてきたのだった。でなければ、100歳にも満たない若造がどうして上将になどなれただろうか?
林静恒の存在により、八大星系、そして星際海賊たちさえも平穏を保っていた。そこで彼は連盟政府の代表として、軍事的自治権を要求する各星系に圧力をかけ、両陣営の対立を容認し、悪化させていた。
そして精神的に不安定だったイェリフを除き、陸信の元部下を各星系の中央軍へと『追放』した。
やり終えて次の行動を起こす前に、何者かにそそのかされた愚かな連盟管理委員会が彼を排除しようした。
林静恒はこの状況を逆手に取って、死を偽装した。彼が去れば、海賊は必然的に反撃に出て、軍事自治権を持たない各星系がその矢面に立たされることで八大星系のバランスは崩れる。最大で5年以内に、連盟中央委員会は『解体』か『政変』かの選択を迫られることになるだろう、と予測していた。
ところが5年後この壮大なドラマが始まる前に、招かれざる客によりチェス盤はひっくり返された。連盟には反撃する力などない。
陸信は大切な弟子を連盟に残したが、それがゆっくり効く毒薬だったとは、おそらく想像もしていなかっただろう。
陸必行「あなたは死んだ後も連盟を信じているのか?・・・僕は信じない。いつか壊してやる。死者を軽蔑するつもりはないんだ。陸信将軍、気を悪くしないでくれ。」
林静恒「陸必行、独眼鷹は第八星系で勇気を奮い起こして連盟を選んだ最初の一人だったということを、おまえは理解しなければならない」

林静恒「陸信は俺の養父であり、師でもある」
連盟軍の陸信上将は、第八星系に軍事自治権を委譲することを提案したと言われている。であれば、間接的に七大星系と連盟の間の軍事自治権をめぐる争いの火種となったと言えるだろう。軍事委員会における彼の評判は一世紀にもわたって比類なきもので、十大上将の一人に数えられていたが、彼は政治的手腕を全く持ち合わせていなかった。
林静恒「なぜ連盟管理委員会はそこまで陸信の処罰に躍起になったのか?そして公民から厚い支持を得ていた彼が、なぜ公開裁判(陪審員裁判)の前夜に逃亡し、後戻りできない道を歩んだのか・・・」
陸信はその夜違法機甲に乗って逃亡し、『薔薇之心』で追ってきた連盟軍のミサイルによって機甲共々広大な宇宙に砕け散った。彼は自らの命を、後に続いてきた仲間たちを守るために使ったのだった。
林静恒「湛盧の記録を自ら消去したのは、なぜだ?彼は一体誰を警戒していたんだ?」
林静恒「(連盟に失望したか?今でも連盟の自由宣言に合意しているのか?)」
陸必行「僕は第八星系の子で、親は一人しかいない。陸信将軍と彼の自由宣言を尊敬はしているが、彼の遺伝子は僕の体のほんの一部にしか残っていないし、精神的に深い繋がりもない。この件に関しては、感情的な駆け引きで皆を騙せばいいだけだ」