アニメ魔道祖師
<完結編第第十二話>
用語・補足説明
アニメ『魔道祖師』のエピソードごとに
【魔道祖師】
完結編<第十二話>忘羨(ワンシェン)
【雲夢江氏の祠堂】
魏無羨「江おじさん、虞夫人、眠りを妨げてしまいました。二拝は天地と両親への拝礼として、まず二人に俺の隣にいる人を認めてもらいたいんです。」
江澄「魏無羨、お前は本当に部外者だという自覚がないようだな。来たければ来て、出ていきたければ出ていって、人を連れてきたければきて。ここが誰の家で、主人が誰なのか覚えているんだろうな?」
江澄「両親の霊前にいかがわしい奴まで連れてくるとは」
魏無羨は自分一人であれば江澄が何を言おうとも全て受け流すことができた。しかし藍忘儀には江澄の暴言と正面からぶつけてくる悪意を、自分と共に耐え忍ばせたくなかった。
魏無羨にはわかっていた。江澄はかつての事でずっとけりをつけたいと思い続けていたのだ。江澄は蓮花塢が滅ぼされたことの責任は魏無羨だけにあるのではなく、温寧と藍忘儀もその一端を担った(になった)と考えていた。
二人が立ち去ろうとするのを見て、江澄は紫電を打つ。江澄は決して本気で傷つけるつもりはなく、すぐさま鞭を引いたものの、勢いを止めるのにはもう間に合わない。その時鎖が飛んでくる。
江澄はその手で金子軒の心臓を貫き、姉の幸せと命を葬り去った温氏だけはどうしても我慢できなかった。
魏無羨の状態を調べていた藍忘儀は、単にかなりの疲労が溜まっていたことと、激昂したせいで心臓に負担がかかって一時的に意識を失ったのだとわかった。
温寧は随便を江澄に突き付けていた。江澄は苛立ちながら、自分でも何かの力に導かれるようにして、随便の柄を握り、力一杯に抜く。
温寧「封剣が解除されたのではありません。今でもその剣は封印されたままです。」
温寧「あの山には私と姉の温情、そして魏の若様もいたんです。あなたは芳香をかいで意識を失った・・」
「私の姉温情が魏の若様の金丹を取り出し、あなたに移したからだ!」
金丹を移す術を実行した者はそれまで誰一人としていない。実用性もない。温情も仮説を立てていただけだった。だから引き受けるつもりなんてなかった。
だが魏無羨はずっと温情にまとわりついて諦めなかった。5割でもいい、半々なら十分だと言って。失敗して金丹を失ったとしても自分は進む道に困らないけど、江宗主という人間は駄目なんだと。
温寧「あなたは本当に魏の若様が剣を佩かないことで礼儀をわきまえない、と他人から後ろ指さされ、非難されるのを喜んでいたとでも?もし剣を佩いていたら、どうしたって誰かが、あらゆる理由で手合わせを要求してくる。でも金丹を失い霊力が足りない彼は、仮に剣を抜いたとしても、全く持ち堪えることなんてできなかった・・」
剣は礼服と同じで、重要な集まりの場では必要不可欠な礼儀の象徴でもある。
過去 射日の征戦後の宴で
聶明玦「魏無羨はなぜ剣を佩いていない?」
藍忘儀「おそらく忘れたのでしょう。珍しいことではありません」
藍曦臣「魏公子は以前、規則や礼儀礼節など細々と煩わしいことは一切気にしたくないし、剣を持たないくらいでなんだ、たとえ服を着ていなくたって、誰も自分に無理強いすることはできない、と言っていましたよ。若さの上ですね」
過去 江澄との会話
魏無羨「俺は見ず知らずの奴らにつき合って手合わせなんてやりたくないんだ。俺の剣は鞘から出ると必ず血を欲するから。いっそのこと剣自体佩かなければ、あとあと面倒なことにならないし、俺も煩わしい思いをしなくてすむ」
江澄「お前は人前で剣術を見せるのが好きだっただろ?」
魏無羨「それはまだ子供だったからだよ」
「魏の若様は丸二日、想像を絶する痛みに耐えた」
麻酔も考えたが、金丹を取り出して体内から分離させる時に麻酔状態にあると、金丹も影響を受けるのか否か、もし受けていたらどのくらいで消えてしまうのか何も確証がなかった。つまり、金丹を取り出される人は、絶対に意識がはっきりしていなければならない。夜を徹して次の日の夜まで、覚醒した状態で、霊脈と繋がっている金丹が自らの体から引き剝がされるところを直視し、平凡になっていくのを感じ続けるのだ。
藍忘儀「私はただ、彼は霊力を損ない、それで何か異常があるのかと思っていた」
江澄「魏無羨、俺はお前を恨んじゃいけないのか!?」
彼には魏無羨を憎み続けることもできたはずだった。しかし、今この瞬間も彼の体内で霊力を巡らせている金丹のせいで、どうしてもそうすることができない。
江澄「・・どうして・・・なんで俺に教えてくれなかったんだ!?」
魏無羨はこんな江澄の姿を見たくなかったからだ。一生思い悩み、耐えがたい苦しみに自分を見失ってしまうに違いない。
江澄も、魏無羨に言っていなかった。
江澄「(あの時、両親の遺体を取り戻したくて蓮花塢に戻って温氏に捕まったのではなく、温氏が魏無羨に出くわしそうになったのを見て、俺は飛び出して奴らを引きつけ、お前から引き離したんだ・・)」
藍思追(ラン・スージュイ) 字 思追(スージュイ)
名 願(ユエン) 旧 苑(ユエン)
乱葬崗掃討後、一人取り残された阿苑は木の洞に長い間隠れていたようだ。そして病にかかって高熱を出していたところ、藍忘儀が見つけて藍家へ連れ帰り、留まらせると決めたのだった。高熱のせいで、思追は子供の頃のことを何も覚えていなかった。
「なぜ忘儀の体に戒めの鞭と烙印の痕が刻まれているのか」
藍曦臣「当時の不夜天では私も動けない状態で、霊力が枯渇するまで消耗した忘儀が、意識を失った君を乗せて御剣して離れていくのをただ見ているしかなかった。ようやく霊力が回復し、急いで姑蘇藍氏に応援を呼んで忘儀を探した。私の懸念は他家の者が先に君たちに追いついたら、忘儀が君の仲間だと思われてしまうことだった。評判が下がるくらいならいい、最悪の場合、その場で切り捨てられることになる。二日間探し回ってやっと夷陵の山の洞窟に君たちを見つけた。」
藍曦臣「忘儀は見つかることは予想はしていたようで、私たちの説得にこう答えた。
『何も説明することはありません。ご覧になった通りです。』と。
忘儀は叔父と私に盾突いたことなどそれまで一度もなかった。しかし君のために、同門の者三十三名に怪我を負わせた。」
藍曦臣「忘儀は私たちを振り切って君を乱葬崗に送り届けたあと、暗然と帰ってきて罰を受けた。私たちの問いに、
『君のしたことの是非を断言することはできないけれど、君と共に全ての結果を背負う』と答えた。
それから数年、忘儀は自省(じせい)していたことになっているが、実際はあまりの深手に動けなかっただけだ。それなのに、君の死を知った時、忘儀は強引にその体を引きずってどうしても乱葬崗に行きたいと・・。何日も探し回って、見つけたのは昏睡状態の温苑だけだった。」
藍忘儀はその帰り道、彩衣鎮で天子酒を一かめ買って帰り、生まれて初めて酒を口にし、酔った。そのあと自分が何をしたのかは覚えていない。彼は雲深不知処にある古い一室の扉を叩き壊し、「笛が欲しい」と探しまわったらしい。望みのものが見つからずにいた時、岐山温氏から接収し秘蔵されていた鉄の焼き印が目に入った。
そして酔いがさめてみると、彼の胸元にはかつて魏無羨の胸元にもあった、あの烙印と同じ傷痕があったのだと言う。
一本の小道、一頭のロバ、そして三人の人影。黒ずくめの男が白ずくめの女を軽々と抱きかかえてロバの背中に乗せ、小さな子供を自分の肩に乗せた。男がロバの手綱を引いてゆっくりと歩いていく。
蔵色散人「阿羨、他人が良くしてくれたことだけを覚えておいて、自分が他人に良くしたことは覚えておかなくていい。人の心の中にはあまり多くのものを入れない方がいい、そうした方が楽しく自由に生きられるのよ。」
魏無羨の幼い頃の数少ない記憶だった。
「思追・・思い出したのか?」
藍思追「・・かつて私の姓は温でした」
藍思追「陳情を見たらすごく懐かしく感じました。」
魏無羨「そりゃそうだろ、お前は陳情をかじるのが大好きだった。しょっちゅうよだれまみれにするから、そのせいで俺は吹けなくなってたなあ」
温寧「何をするかはゆっくり考えます。これからの道は、自分の足で歩かせてください。」
藍忘儀「温寧も雲深不知処の近くに住めばいい。彼ともいつでも会える」
【二人のその後】
連れたって旅をしていた。林檎ちゃんを連れてあちこちで遊猟し、相変わらず「逢乱必出」どこかで邪祟が民を脅かしていると聞けばすぐさまそこへ向かう。進んで解決してやって、ついでに各地を遊覧したりして楽しんだ。
しかし魏無羨は「逢乱必出」の行動がこれほど難しいことだとは思っていなかった。藍忘儀について自ら実践してみると、想像以上に根気がいることだと気づいた。難しいからではなく、逆にあまりにも簡単すぎるからだ。彼が過去に狩ってきたモノと比べると、まったく面白みがない。それでも、藍忘儀と一緒ならば気楽で居心地よく感じられた。
三か月後、二人で故蘇に戻る。
魏無羨は雲深不知処の少年たちを連れて人里離れた野山に赴き、鳥や獣、妖魔鬼怪たちを『いじめ』ながら少年たちを『鍛えて』いる。
藍啓仁は魏無羨を見るたび心臓発作でも起こしそうになり、風前の灯火かと思うほど息を荒くしている。
魏無羨「藍先生は防火・防犯・防魏嬰だからな」
【温寧と藍家の門弟】
魏無羨「なんでこいつら逆立ちして家訓の書き写しをしてるんだ?」
藍忘儀「罰を受けてる」
藍忘儀「門限を過ぎても雲深不知処に戻らなかった」
藍忘儀「それから、鬼将軍に同行して夜狩をした」
魏無羨「うわっ!お前ら本当に度胸あるな」
藍忘儀「これで三度目だ」
魏無羨「(邪を仇のように憎む藍啓仁がここまで罰するのも無理はない・・)」
藍忘儀「彼(藍思追)が率先してやった」
藍思追「江宗主がまだかなりお怒りの様子で・・鬼将軍が困らされていないといいですが」
推測できる。藍思追が皆と一緒に夜狩に行けば、温寧はきっと彼らを陰で守り、危険な目に遭えば助けようとしたはずだ。そしての江澄の方も金凌を心配してこっそりついて行くだろう。となれば、温寧と江澄は緊迫した場面で出くわすことになるのだ。
【金凌と江澄】
金光瑤亡きあと、蘭陵金氏の純粋な血を引く直系の後継者は、もう金凌一人しか残っていない。しかし傍系(ぼうけい)の年寄たちが大勢傍らで虎視眈々としていて、外部からは多くの世家から嘲笑され蔑まれ、内部では一族同士がそれぞれ腹に一物を抱えている。
まだ十代の金凌にその場を静められるわけがない。結局は、他家でありながら江澄が紫電を手に金鱗台に上って一族の者たちをけん制した。とはいえ、今後どうなるかはわからない。
藍景儀「相変わらず元気そうですよ。江宗主は変わらず鞭で人を打つのがお好きなようですし、お嬢様(金凌)はますます性格がよろしくなって、前は叔父さんに一言叱られたら三言言い返してたけど、今じゃ十言くらい言い返せますよ」
【前世の魏無羨の死】
『夷陵老祖にとどめを刺したのは弟弟子の江澄だ。』
『自分が作り出した邪術の反動を受けて、手下の鬼どもに喰われたって聞いたぞ。』
確かに夷陵老祖は乱葬崗で死んだはずなのに、その後魂を召喚しようとしてもどうしてもできない。
――つまり生きているか、魂まで消滅したかのどちらかだ。
魏無羨「死んだフリ?俺はずっと消滅してたんだ」
魏無羨「これだけははっきり言っておくぞ。俺は江澄に殺されたんじゃない。」
藍忘儀「お前は邪鬼に呑み込まれて死んだのだと皆は思っているが、乱葬崗を調べた限り真相は違う」
魏無羨「この人は生前相当ひどい苦痛と悲しみの中で自害した可能性が高い。きっと二度とこの世に戻りたくないと願って絶命したんだろう。魂魄自体が生きたいと望まなければもう手の施しようがない(召喚は出来ない)。」
魏無羨「俺は死んだ。死に方なんてどうだっていいだろ」
【藍忘儀の十三年間】
魏無羨「いつかまた姑蘇に行く機会があったら、(天子酒を)絶対に八個でも十個でも買ってどこかに隠して、満足するまで目いっぱい飲んでやるんだ。」
静室の床下には天子笑と笛が隠されていた。
魏無羨「お前、部屋に隠してある天子酒をこっそり飲んだことは?」
藍忘儀「否(いな)」
魏無羨「なあ含光君、お前は俺に冥銭を燃やしてくれたよな?少なくとも、お前だけはあるよな?」
藍忘儀「冥銭は亡き者が使う。お前は違う。」
藍忘儀「いつか再会できるだろう。山や川が出会うように」